あなたの落とした願いごと
「何、…えっ?」


宮司さん、あんな雰囲気で冗談を言う人だったの?

いやいや、滝口君が次期宮司じゃないなんて有り得ないよ。

だって、彼はいつも誇らしげに、嬉しそうにその事を口にしていたではないか。


それに、“此処に立ち入る資格はない”ってどういう事?

現に滝口君が神社に入っているから、それを牽制する為という意味だろうか。

そんな、はなから聞いたら出禁みたいな言い方、いくら冗談でも許されるのかな…。



花火が打ち上がる音が途切れずに聞こえる中、完全に困惑した頭の中では何人もの私が討論を始めていた。


意味が分からない、…何が何だかさっぱり分からない。


さすがの滝口君もショックを受けているのか、お面を落とした姿勢のまま身動きひとつしない。


私も理解が追いつかないけれど、滝口君の頭の中は私以上にごちゃごちゃになっているはずだ。


「私、こういう時、…どうすれば良いんだろう」


今のは、完全に盗み聞きをしてしまったという認識で合っているよね。


それって、普通に考えて許されない事だよね。


(うわあごめんなさい、聞く気は無かったの…)


今話しかけるのは気が引けるから、後で言い訳を並べ立てて謝ろう。


こんな事、彼も他の人に聞かれたくなかっただろうし。


滝口君が次期宮司ではないなんて…だからと言って私が彼を好きなのは変わらないけれど。
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