あなたの落とした願いごと
染まりたての黒髪を手で摘み、不思議そうに首を傾げる滝口君の言葉は、悪気がなくても私の心を抉ってくる。


「あー、そうだね、結構印象変わったかも!パッと見じゃ誰だか分かんないよ!」


自分は教室に入ってきてすぐに滝口君に気付いたのに、エナは私の為に優しい嘘をついてくれる。


でも、今の私にはその台詞すらも苦しくて。


(っ…、)


抑えようと頑張っているのに、悔しくて辛くて、涙で視界がどんどん霞んでいく。


滝口君、ごめんなさい。

好きな人の事を忘れてしまう様な馬鹿な女で、ごめんなさい。

貴方の事だけは、何があっても覚えていたかったのに。


昨夜感じた何倍もの悲しみが、大きな岩のように私の肩にのしかかる。


皮肉な事に、こんな時でも彼の顔にはあるはずのパーツが何もついていなかった。



だめだ、私、ここに居れない。



「…ごめん、なさ……」


滝口君に謝ったはずのその言葉は、酷く掠れていて。


「は?え、ちょ、ミナミ!」



神様、私は何か悪い事をしましたか。


毎日願っているのに、どうして貴方はこんなに意地悪なんですか。


綺麗な卵型の肌色の丸を見た私は、一筋の涙を零して一目散に教室から飛び出した。


「沙羅!?何処行くの!?」


後ろからはエナの慌てた声が聞こえるけれど、もう振り返る余裕なんてなくて。
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