あなたの落とした願いごと
でも何を話したらいいか分からなくて、ただ気まずい空気を紛らわそうとペットボトルを見つめていると。


「…何があったのか、話せるか?」


珍しく心配そうな声で、滝口君が口火を切った。


びくん、と、肩が跳ねる。


「…でも滝口君、学校が」


「良いよそんなもん。お前も俺も遅刻確定だろ」


「…うん」


言葉は相変わらず悪いのに、伝わって来る温かさは変わらないから不思議だ。


境内の裏はとても静かで、表側に居る参拝客の声は何も聞こえてこない。

まるで私達2人だけの世界に迷い込んだみたいで、こんな状況でもそれを嬉しく思ってしまう。


でも。


ふっと息を吐いた私は、ごめんなさい、と謝罪の言葉を口にした。


「私、…ごめんなさい、私、滝口君の事が分からなかった…。それで、誰ですか?、って…」


ああ、思い出すだけで悔しくて泣けてくる。


「お前、あんなの気にしてたの?謝られる事じゃないんだけど」


でも、それで泣いてたなんて言うなよ、と、私の隣に座る彼はからからと声をあげて笑う。


「そんなん俺気にしてないし、全然大丈夫なんだけど」


確かに滝口君にしてみれば、こんな事で泣くなんて可笑しいだろう。


でも私にしてみれば、これは最低最悪を極める重大な出来事なんだ。


「…大丈夫なんかじゃ、ないよ…」


必死で涙を飲み込んだ私は、掠れた声で呟いた。
< 187 / 230 >

この作品をシェア

pagetop