あなたの落とした願いごと
滝口君が8年間も夏祭りに参加出来なくて、祭囃子を未だに任されない理由は、

面倒臭いなんて軽い言葉で終わらせられるようなものではなく、

迷子になった少女を助けたから、という、とても美しくて儚いものだったから。


それに、夏祭り当日、滝口君は鳥居の前で“許して下さい”と囁いていた。


あれは断じて儀式等ではなく、自分の犯した罪を許して欲しいという、彼の心からの願いだったんだ。


滝口君の両肩に乗せられた、実に8年もの間つき続けてきた嘘という名の岩の重みをありありと感じる事が出来た。


「でも、夏祭りの時とか、今も、」


滝口君は神社に入ってるよ。

そう言おうとしたら、私の言いたい事が伝わったらしい滝口君に先を越された。


「それとこれとは別。親父にばれなければ良いと思ってたし。まあ、夏祭りのあれはさすがに計算外だったけど」


彼は笑ってみせるけれど、もうそうやって無理をしないで欲しい。


そりゃあ、夏祭りの日に私が宮司さんに挨拶に行こうとした時にあんな態度を取ってしまうよ。

お面で、自分の顔を隠したくもなるよね。

今だって、神社の何処に居るかも分からない自分の父親を恐れて、私にお茶を買ってくるのにも相当な神経を張り巡らせていたのではないだろうか。


こういう時、何て声を掛けてあげれば良いんだろう。


滝口君の力になりたいと望む私が出来る事は、一体なんだろう。
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