あなたの落とした願いごと
「お前の切実な願いなんかに比べたら、俺の願いの方がちっぽけだし馬鹿らしいよ。こんなん、親父に直談判すればどうにでもなるのに…」


私は、はあーっ、と、大きな溜め息をついた滝口君の横顔を盗み見る。


誰もが羨む綺麗な輪郭と高く整った鼻筋、そして、


きつく噛み締められた、唇。



滝口君は自分の知られたくない過去を軽い口調で話していたけれど、それは彼の本当の想いと矛盾しているはず。


だって、私は知っている。


滝口君があんなに生き生きと神社の説明をしてくれた事、夏祭りで私の手を取って案内してくれた事。


神社仏閣に関する膨大な知識は全て、滝口君本人の血の滲む様な努力の証。


私には、必死に追ってきた夢が目の前で絶たれる事への絶望感は分からない。


でも、顔を覚えられない事に対して初めて病名が付けられた時、

治療法が存在していないと言われて目の前が真っ暗になって、

皆の顔を見れなくてごめんなさい、と、母の胸に顔を埋めて大号泣したあの時の絶望感と、感覚は似ているだろうなと思う。



それに、滝口君がこんなにも成績優秀で1度たりとも校則を破らないのは、彼の父親に自分の頑張りを認めて欲しいが故の行動なのではないだろうか。


皆に自分は滝口神社の次期宮司だと嘘を言い続けていたのだって、その言葉に自分の夢を託していたから。
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