あなたの落とした願いごと
嘘が大きくなって取り返しがつかなくなっても、それでも、その嘘を願いに変えて縋っていたんだ。


完璧主義な彼の事だから、こうして自分の弱みを見せるのは相当な勇気が必要のはず。





『俺を、滝口神社の次期宮司にして下さい』





滝口君が神様の元まで届けられずに落とした願いごとが、確かな重みと共に聞こえた気がした。



「…ううん。滝口君の願いは小さくなんかないし、むしろ、…格好良いと、思う」


何て声を掛ければいいか迷いに迷った末、私が口にしたのはいつかの時に言えなかった“格好良い”の言葉だった。


「誰にも言えない夢を追い掛けるのは簡単な事じゃないと思うけど、…だからこそ、道は開けるよ」


私の場合は願うだけで叶うはずもないけれど、滝口君は夢に向かって努力して、行動する事が出来る。


「それに、此処に祀られてる神様は“みちひらき”の神様なんでしょう?」


滝口君から教わった事、私は忘れてないよ。


滝口神社が祀っているのは、あの天照大神の孫の道案内をしたとされ、そこから“みちひらき”の神として絶大な信仰を受けた、猿田彦大神。


私はそんな神様が祀られているとは知らずに長い間参拝を続けてきたけれど、滝口神社の全てを知っている滝口君の願いなら、きっと神様も聞き入れてくれる。


だって私は、貴方がこの神社と神様にかける大きな想いを知っているから。

貴方の願いだけは、叶って欲しいんだ。
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