あなたの落とした願いごと
「俺、今嬉しいんだけど。8年間、誰にも言えずに独りで抱えてきたから、…自業自得だし、でもお前にそう言われて初めて、……報われた気がして、っ、」


滝口君は最後まで言葉を紡ぐ事すら叶わず、再度涙を拭った。


こんなに感情を顕にして泣く滝口君、初めて見た。


彼の心の中の時間は、きっと8年前の夏祭りで止まっているのだろう。

そしてそれは、私も同じ。



「…滝口君、」


彼の過去に耳を傾けていた時から考えていたある仮説について、私はそっと口を開いた。


もしかしたら、私は人の人生を変える様なとんでもない大失敗をやらかしたかもしれない。




「滝口君の夢を絶たせた原因、…私かもしれない」



「…?」


涙を拭いていた滝口君がその手を止め、まじまじと私の方を見てきたのが分かった。


彼は、何を言っているのか分からない、と言いたげな顔をしているのだろう。



「私、8年前、此処の…滝口神社の夏祭りで迷子になったの」


その時、私の手を引いてくれた男の子は、“此処の事を良く知っている”と言っていた。


「もしかして、その女の子を見つけた場所って、フランクフルトの屋台の隣じゃなかった?」


滝口君ののっぺらぼう顔が、古い記憶を手繰り寄せるように俯く。



そして。


「あ、…そうかもしんない。その子、ピンクの浴衣着てて、俺と係の人の事を“お化け”って…!」
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