あなたの落とした願いごと
「あん時助けたのがミナミで良かった。…本当に良かった、」


滝口君の声が、再び震え始める。

それが本心からの言葉なのか、それとも自分に言い聞かせているのか、私が知る術はない。


「…それに、お前はもう人混みに怯える心配はないな」


滝口君の声からは、怒りの感情がまるで読み取れなかった。


「どういう事、?」


彼の言葉の意味が分からず、お茶を一口飲んだ私は首を傾げた。


「8年前みたいにお前の手繋いどけば、もう怖くないだろ?」


(なっ、)


顔が、熱を帯びるのを感じる。


迷子になる心配もないし一石二鳥だな、なんてペラペラと話し続ける彼は、一体どんな顔をしているのだろう。


今この場で、滝口君は私をからかって遊んでいるのだろうか。


嬉しいけれど、同時に悲しくもなる。


「で、でもね滝口君。私、本当に取り返しのつかない事」


「何お前、俺が怒ってると思ってんの?俺にも人の心くらいあるわ」


慌てて弁解しようとしたら、これ見よがしに鼻で笑われた。


「俺の事は俺が何とかする。…いいな、これはお前のせいじゃない」


人助けしたのにそれを聞き入れない親父が悪いんだよ、と、彼は豪快に笑い飛ばす。


「…滝口、君」


彼はまだ、無理をしているはずなのに。


再度謝ろうと口を開いたら、次謝ったら口聞かねぇからな、と、本気の口調で脅しをかけられた。
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