あなたの落とした願いごと
「大丈夫、ゆっくり回ってくる!時間があればシンデレラ観に戻って来るから」


「分かった!廊下混んでるかもしれないからそこだけ気をつけてね!」


既に廊下から聞こえてくるガヤガヤとした声が、そこに大量の人が蠢いている事を示している。


心優しいエナの忠告の言葉を有難く受けとった私は、ありがとう、とお礼を伝えて廊下へと向かった。



「うわー、凄い人…」


案の定、廊下は在校生や保護者、受験生と思われる生徒、更には地域の人々で賑わっていた。


学校指定の制服を着ていればまだしも、着ぐるみやコスプレをしている人達は、最早どの学年に属している生徒なのかすら理解が出来ない。


どれが先生でどれが生徒の保護者か、はたまた誰が私と面識があるのか、その全てが分からない。


大勢の人々は全員、首から上のない幽霊みたいな姿で、

そのくせ、楽しげな笑い声を響かせて教室を出たり入ったりを繰り返している。


「っ、」


また、夏祭りの出来事が頭をよぎったけれど、


「あの時助けてくれたのは、滝口君…」


呪文のように彼の名前を唱えていれば、不思議とあの日の手の温もりまでもが思い出されて、少し、フラッシュバックがましになった気がした。



そんなこんなで、私は1時間近くもぐるぐると色々な階の廊下を歩いていた。
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