あなたの落とした願いごと
「私が王子を夏祭りに誘った時、王子はすぐに断った。…でも何でその後、王子はすぐにあんたと夏祭りに行く約束取り付けてんの?何であんたと王子が手繋いで歩いてたの!?」


そこ、私の居場所なんだけど。

どうせ付き合ってないんでしょ。

なら、退いてよ。


夏祭り当日に彼女も神社を訪れていたのだから、私達が手を繋いでいたのを見たのも当然だ。


福田さんは大きな舌打ちをして、傍に転がっていたダンボールを蹴飛ばした。


時を同じくして、びくんと私の肩が跳ねる。


「王子の注意を引こうと思ったら、いきなりどっかのおじさんと話し始めちゃうし。もう訳分かんないんだけど。全部あんたのせいなんだよ!」


滝口君に振り向いて欲しいという欲求を私にぶつけた彼女は、ガシガシと髪を掻きむしる。


福田さんの言う言葉には正論も含まれているから、言い返す事もままならない。

私も彼女と同じ感情を持っているのに、それすらも外界に出す事が許されないんだ。


福田さんの表情を何とかして読み取りたくて目に力を集中させていると、


「とにかく、私の王子から離れて。私はあの人に一目惚れしてるの、分かる?王子の顔を見た瞬間、あの人の家が凄いって知った瞬間、恋に落ちたの!」


福田さんの怒りに滲んだ声が、私の心臓を突き刺した。


(……)


今までの私なら、速攻でこの恋を諦めていたはず。
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