あなたの落とした願いごと
「お前、俺がどんなに言っても聞く耳持たなかったから、今改めて言わせて貰うけど」


「っあ、」


私の方へ一度も顔を向けない滝口君は、一歩一歩確実に福田さんへの距離を縮めていく。


たった一瞬、滝口君の鋭く細められた双眸が見えた気がして、

どくん、と、どの感情から来たのかも分からないのに、心臓の鼓動がはっきりと聞こえた。


そして。





「俺、お前とは付き合えないから」





謝罪の言葉も、感謝の言葉も抜きにして。


滝口君がはっきりと口にした言葉は、福田さんが彼に伸ばしていた糸をあっさりと切り落としてしまえる程に鋭利なものだった。


「っ、」


私の位置からは福田さんの後ろ姿しか見えないけれど、彼女の肩が震え始めたのは私の目にもしっかりと映った。


私なんかよりも何倍も努力をしてきたのに、彼女は此処で完全に振られてしまったんだ。


今の福田さんの立場を私に置き換えたら急に切なくなってきて、慌てて涙を飲み込んだ。


「俺なんかより、良い奴なんて山ほど居んだろ」


滝口君も少しは慈悲の心を持ち合わせているらしく、最後は頭を掻きながらそんな言葉を落としていた。


正直、学年1のモテ男と呼称される彼を超える人が居るのか気になったけれど、

彼が慰めの言葉を掛けている事自体が目を見張る成長だから、聞き逃す事にする。
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