あなたの落とした願いごと
それに、彼が”俺なんか”と半分自虐的な言葉を言った理由は、多分私と彼にしか理解出来ない。


百歩譲って福田さんと滝口君が付き合ったとして、彼が懸命に隠してきた事実を知った瞬間、”一目惚れ”である福田さんが離れる事は一目瞭然だったから。



「分かったら、さっさと此処から出てってくんない?」


数秒後、滝口君が言い放った言葉は相変わらずの塩っぽさを含んでいた。


「っ、」


あんなに怒り狂っていた福田さんは、もう見る影もない。


素直にドアの方へと歩みを進めた彼女は、涙を拭いて一瞬だけ私の方を振り向いたかと思うと、

そのまま、空き教室を出て行ってしまった。




「……」


そして、空き教室に残された私と滝口君の間には長い沈黙が流れた。


何か言わないと、と思うけれど、こういう特に限って優柔不断な考えが邪魔をしているんだ。


「…お前、結構良い事言うんだな」


結局口火を切ったのは、先程まで福田さんが立っていた場所の近くに置かれた机の上に座っている滝口君だった。


「…え、」


何を、言っているんだ。


深呼吸をして落ち着いた頭で考えてみると、様々な疑問が頭をもたげる。


どうして遅刻をしたの、とか、いつ髪の毛を染め直したの、とか、劇の本番には間に合うの、とか、

どうして、私達が此処に居るって分かったの、とか。


「どうして…」
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