あなたの落とした願いごと
「知ってる」


間髪入れずにそう答える滝口君は、何処までも嫌らしくて格好良い。



「だってお前、全然自分の表情管理出来てないし。浴衣の色でアピールしてんのバレバレだったし、勉強会の時に隠れて泣いてたのも知ってる」


「え!?気づいてたの、」


私を包んでいた甘い雰囲気は、彼が地雷を踏んだ事で揉み消される。


「あん時、俺が寝てるって勝手に決めつけたそっちが悪いんだろ」


「よく見えなかっただけだもん!」


いつもみたいに軽く言い合った後、私ははっと我に返った。


滝口君に自分の病気を馬鹿にされるのは許せるとしても、彼の感情を直接共有出来ないのは悲しい。


それに、私はまた滝口君の事を忘れてしまうかもしれないんだ。



「でも、待って、」


私は、彼の凹凸のない顔をしっかりと見つめる。


「私、この前みたいに、滝口君の事忘れちゃうかもしれない。…誰って、聞いちゃうかもしれないっ、」


好きな人を忘れる事だけでも心臓を上から鷲掴みにされたかの様に苦しかったのに、その相手が恋人になると考えただけで、吐きそうな程の不快感に襲われる。


「それはねえよ」


でも。


滝口君の言葉は何よりも力強くて、

私の髪の毛を、ふわりと舞い上がらせた。


「俺は、この先ずっと金髪で居続ける。…それに、お前が俺の事分かんなくても、俺がお前を探し出す。絶対に」
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