あなたの落とした願いごと
「福田さん、すっごいアピールぶりだよね…。まあ、今のところ全敗だけど」


「そうだね…」


滝口君の気迫に負けたらしい女子がすごすごと自席に戻っていくのを眺めながら、エナがぽつりと呟いた。



そう、実は、滝口君と席の近い私やエナの他に、彼に物怖じせずに話し掛ける女子が1人だけ居るんだ。


その子の名前は福田 亜美(ふくだ あみ)、席は窓側から2列目の真ん中辺り。


福田さんは女子の中でも小柄な方で、黒髪ボブにいつもキラキラしたピンを付けているから、もう存在自体が明るく光って見える。


女子から見ても可愛いと言われている彼女は休み時間の度に滝口君に話し掛け、塩対応ばかりとる彼の事を格好良いと褒め称えている。


彼の事を“王子”と呼んでいるくらいだから、本気で彼の事を想っているのだろう。


そして、彼女は滝口君を見て騒ぎ立てている女子達ー特に席の近い私とエナーを勝手に敵対視しているようで、若干話しかけにくいイメージがあるんだ。


私は福田さんの表情を見れないけれど、いつもエナが「こっち睨んでる」等と実況中継をしてくれるから、自然と彼女に対して苦手意識を持つようになってしまったんだ。



社会科見学の班決めで、もし福田さんと一緒だったらどうしよう。


チャイムが鳴り響き、5時間目の古文の先生が教室に入ってくるのを見ながらそんな事を考える。
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