あなたの落とした願いごと
どうせなら空良君の言うように、席の近い4人が同じ班になったらきっと楽しめるのに。


元々エナの様に社交性がある訳でもない私は、あまり話した事がない人と班員になっても気まずくなるだけ。


それに初対面の人は必ずと言っていい程猫を被っているから、その人が実際はどんな気持ちなのかを汲み取るのは、普通の人よりも相当な体力を使う。


エナとは十何年の付き合いだし、空良君は正直に感情を表に出すし、滝口君は何だかんだいっていつも声色が同じだから逆に話しやすい。


私の思考はいつも“人の顔を見れない”事が大前提となって進んでいくから、何も知らない福田さんが、私が彼らと一緒に居るのは気に入られようとしているからだ、と勘違いしてしまうのも仕方の無いことで、

でも、私は彼女に本当の理由を言うわけにはいかない。


言ったら最後、私が必死で築き上げてきた人間関係が全て崩れ落ちてしまう。


「はい、教科書開いて下さい。桐壺の所ですよ、良いですね」


いつの間にか5時間目の授業が始まり、早速寝る体勢に入った空良君とエナ、そして真面目に教科書を開いた滝口君を横目で見ながら、私は心に1人ごちる。


…それに、そんなに滝口君が格好良いなら、1度くらい彼の顔を見てみたいな、なんて思わない事もないんだ。



「はーい、HR始めます」


瞬く間に時は流れ、6時間目。


熊本先生がやって来て、流れるようにHRがスタートした。
< 27 / 230 >

この作品をシェア

pagetop