あなたの落とした願いごと
慌てて彼女を宥めようと口を開いたものの、


「お前らバカップルに決まってんじゃん」


滝口君の冷淡な声に、先を越されてしまった。


「うーわ!神葉君、自分がイケメンだからってそういう事言って許されると思ってるの!?」


エナは誰とでもすぐに距離を縮めてしまうから、普通の人なら出来ないような事…例えば、こうして滝口君に文句を言う、なんて事も躊躇わずにやってしまう。


「分かった、分かったから落ち着いてエナ、今すっごい目立ってるから…!」


本当デリカシーないんだから!、等と喚く彼女を何とかして落ち着かせようと手を振り回しながら、私はとある事に気がついた。


「滝口君、私は別にうるさくないって事?」


彼が触れたのはあくまで空良君とエナについてで、私ではない。


彼らに比べたら静かな方だから、私が班員なのは良いと思っているのかな…、なんて、有り得ない事を考えて心の中でにやけながら聞いてみると。


「…お前は平気」


何と、肯定文が返ってきた。


「えっ」


予想と違うその返答に、思わず声が漏れる。


今まで口を開けば塩対応な対応しかせず、たまに路線を変えてきたと思ったら人をからかう様な事しか言わなかった滝口君が、今、私を、肯定した。


…滝口君、冷たいと思っていたけれど意外と優しい部分もあるんだ。
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