あなたの落とした願いごと
先程私に話し掛ける為にこちらを向いた滝口君は、まるで福田さんの声なんて聞こえないかのように空良君とお喋りをしている。


滝口君に対する福田さんの好意は誰が見ても明らかなのに、それを尽く無視する彼は逆に凄い。


どちらにせよ、私やエナの事も良く思っていないであろう福田さんと同じ班にはなりたくないな…、と、心の中で考えていると。


「でしたら、福田さんは前の席の人と同じ班に入って下さい」


熊本先生が、良いタイミングで彼女の行き先を決定してくれた。


良かった、私の班の秩序は保たれた…なんて、福田さんには口が裂けても言えない。


「あっぶな…」


思わず心の声が漏れる私に、それな、と同意してくる幼馴染み。


ふっと福田さんの方を見ると、のっぺらぼうの彼女は未だに私達の方を向いていて。



目を凝らすと、彼女の眉間に明らかに皺が寄っているのが見てとれた。




「うーわまじかよ…しゃーないな、紙貸して」


その後、完全にこの4人で班が決定した事を確認した私達はじゃんけんで班長を決定し、奇しくも負けてしまったのは例の人気者。


エナから紙を受け取った滝口君は、溜め息をつきながら班長の欄にスラスラと自分の名前を書き込み始めた。


「班員は空良、お前ら2人…」


班長の書く文字は習字のお手本並みに綺麗で、思わず見とれてしまう。
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