あなたの落とした願いごと
放課後。


「そこ揃ってない!腕はもっと後ろ側!」


私はダンス部のマネージャーとして、体育館で同じ振り付けを繰り返し踊る部員の様子を見守っていた。



この高校のダンス部には仲の良い60人程の部員が在籍していて、主に大会で踊る作品を練習している。


そんな彼らは四六時中踊っているわけだから、怪我をした人に湿布を貼ったり汗だくの人に冷えピタをあげたりと、マネージャーである私の仕事は山ほどある。


「1年生の名前は何とか覚えてきたけど、こんなに居ると大変だなぁ…」


体育館の隅の方で部員のダンスを観察していた私は、彼らが服につけた名札を目で追いかけながらぽつりと呟いた。


この部活は大所帯だから、部員全員が名札をつけることを義務付けられている。


ダンスは好きでも大人数の中に交じって踊れない私にとって、この画期的なシステムを取り入れた部活の一員になれた事は幸運だった。


マネージャーとして、日々練習に勤しむ部員の名前や部活着の特徴、ダンスの時の立ち位置は全て覚えたけれど、それでも大変なものは大変で。


まあ、これも神が私に与えた“いつか人の顔を見れるようになる為の”試練だと思えば頑張れるのだけれど。



「よし、残り1時間!」


ぐるりと首を回した私がそうやって自分を鼓舞し、パチンと頬を叩いた時。


「沙羅ちゃーん、新しくポカリ作ってきて貰えるー?」
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