あなたの落とした願いごと
遠くの方から、同学年の女子が片手をメガホン代わりに口元に当てながら大声で頼んできた。


「はーい、すぐやるねー!」


距離が遠いのもあって最早誰だか分からない彼女に向かって、私も手を振り返す。


そのままウォータージャグを手に持つと、確かに中の液体が思った以上に少なくなっているのを感じた。


(ポカリは皆好きだから、多めに入れてこよう)


ポカリの粉末が入った袋とジャグを抱えた私は、よっこらせ、と、外にある蛇口に向かって歩いて行った。




「キャー!滝口君のスマッシュ格好良い!」


「神葉先輩と空良先輩のラリーは国宝級だよ!」


外に出て1番に聞こえてきたのは、テニスコートに群がる女子達の大歓声。


どうやら滝口君と空良君がテニスの練習試合をしている様で、スパッ、スパッ、と、ラケットが風を切る気持ちの良い音が私の所にまで届いてくる。


凄いな、何処に居ても人気者だなんて。


どんな感じなんだろう、と、ジャグに水を入れながら背伸びしてみるものの、悲しいかな、人が群がり過ぎて肝心の2人の姿は見えなくて。


キャーキャー叫ぶ女子達の中には、明らかにテニス部以外の女子も混ざっている。


多分、いや確実に、練習試合をしている彼らを見て恋に落ちた人は後を絶たないだろう。


そんな事をぼんやりと考えながら水道の蛇口を捻った、その時。
< 41 / 230 >

この作品をシェア

pagetop