あなたの落とした願いごと
「あれ、富田は」


「家にスマホ忘れたから取りに戻るって。空良君は?」


「寝坊したらしいから置いてきた」



大人も子供も喜ぶ素晴らしい連休、ゴールデンウィークの間に設けられた平日。


普段よりは人数が少ないものの、それでも疲れた様に背中を丸めて改札を通り抜けていく大人達。


その人達の中を逆流するかのようにして『新南山駅』に降り立った私は、すぐに改札近くの柱に寄りかかっている金髪の男の子を見つけた。


この駅は南山大江戸町の最寄り駅だから、改札前は同じ高校の制服を着た生徒でごった返していて。


そんな中でも一際目立つ髪色をしている滝口君は、顔が分からない私でも容易に探し出す事が出来た。



それで、おはようと言いたくて近づいて行ったのに、彼が挨拶よりも先に口にしたのは班員の事。


「バカップル同士、仲良く遅刻しやがって」


はーっ、と、我らが班長は呆れた様に溜め息をついている。


「そうだね」


あはは、と苦笑いでそう返してみたものの、


空良君の寝坊はまだしも、エナがスマホを家に忘れたのは私のせいなんだよ。


その言葉は、喉の奥深くにしまっておいた。



昨夜、人混みが苦手な私の為に、待ち合わせ場所まで一緒に行こうと誘ってくれたのはエナだった。


その気遣いが嬉しくて、私はすぐに了承した。
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