あなたの落とした願いごと
そして今朝、


『今日は、指輪にプラスしてピンク色の靴下履いてきたから!これでうちの事見分けられるでしょ?』


約束の時間に私の家の前に現れた彼女がそんな事を報告してきたから、驚いて下を見ると、確かに彼女はローファーにピンク色の靴下を合わせていて。


『嬉しい!けど、ローファーにその靴下って似合うものなの?』


『さあ?でも、今のJKってそういうの気にしないから良いの良いの』


エナのピンク好きが最大限に強調されたその靴下は、確かに遠目からでも目立つはず。


今日の為にさりげなくこんな事をしてくれる彼女には感謝しかない。


『今朝、家出る直前に思い付いたんだ!うちって冴えてるよねー!って、……あ、』


だから、ありがとうと伝えたかったのに、彼女は道端でいきなりトートバッグの中身をチェックし始めて。


『…ごめん沙羅、靴下に気を取られてスマホ忘れたかも。このままじゃ遅れちゃうから沙羅だけでも先に行ってて!本当ごめんね!』


その後、顔を上げて私に申し訳なさそうに両手を合わせた彼女は、まるで風のように元来た道を走り去って行ったんだ。



私のせいでごめんって謝るのは、そうやって手を合わせるのは、私のはずなのに。



本当なら、此処に向かう途中に話したい事だって沢山あった。


例えば、私の2つ上の兄の陽樹(はるき)から、南山大江戸町限定のクッキーが美味しいから買ってきて欲しいと頼まれた事。
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