あなたの落とした願いごと
エナと空良君の惚気話も聞きたかったし、

この間の部活動の最中に起こった、私と福田さんとのトラブルの事だって、伝えたかった。



結局、あの日から今日に至るまで、私は彼女と一言も言葉を交わす事が出来なかった。


何度か話し掛けようとしたのに避けられるし、それなのに私が滝口君と話していると、明らかに福田さんのものと思われる舌打ちが聞こえてきて。


でも私は滝口君の隣の席だし、何より滝口君からの毒舌攻撃を受けたくはないから、会話を止めるなんて真似は出来ない。


こうして彼女に勘違いされたままの状態で大江戸町に繰り出す事になってしまったから、もし現地で鉢合わせでもしたら少々面倒な事になると思う。


それだけは避けたいのに、何せ私は人の顔が分からないから、彼女が近くに来ても気付かない可能性が非常に高い。


だから、もし私と福田さんとのトラブルを彼女に話せば、福田さんが近くに居る時に教えてくれるかもしれないと思っていたのに、完全に言うタイミングを逃してしまった。



(福田さんを更に怒らせたのだって私のせいだし、本当最悪な事しちゃったな)


…というより、私がこの病気を抱えていなければこんな事にはならなかったかもしれないのに。


なんて、私の頭の中では黒い感情が頭をもたげたけれど。



「ミナミ、お前最初何処行きたいって言った?饅頭のとこ?」


ずっと下を向いてスマホを弄っていた滝口君が、話し掛けてきてくれた。
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