あなたの落とした願いごと
「そんな時間まで何してたの…」


彼が躊躇したのはほんの一瞬で、最後はほぼ投げやりになったその返答に、私は堪らなくなって口を挟んだ。


「もちろんゲームだよ。そろそろ中間試験も近いし、やり納めって事でプレイしてたら…ねえ?」


「誰に同意求めてんの。…とにかく、遅刻ばっかしてたらいつか絶対痛い目見るから」


空良君のフォローし難い回答に、滝口君がすかさず辛辣な言葉を浴びせる。


彼の意見は確かに正論だと思ったけれど、その口調は何となく、自分も同じ経験がある事を暗に言っているような気がして。


そしてどうやら、そう思ったのは私だけではなかったらしく。


「もしかして、神葉君も遅刻して痛い目見た経験あるのー?」


無邪気にそう尋ねたエナの声を聞いて、滝口君が歩く速度を少し緩めた、気がした。


「……」


一気に押し黙った彼の横顔はきっと美しくて、でも、


まるでそこにぽっかりと穴が空いたように、私の目は彼の顔に何も映し出してはくれなかった。






「…ねぇよ」



そんな中、滝口君の小さく掠れた声が鼓膜を震わせる。



同じタイミングで風が吹き、金色の前髪が揺れて彼の目の辺りを覆い隠した。


「だよねー、神葉君程の完璧主義人間に限ってそんな庶民レベルの間違いは犯さないもんね!…空良と違って」


「…詩愛?一言多かったよ?俺ちゃんと聞こえてたよ?」
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