あなたの落とした願いごと
滝口君の声が何処となくいつもと違った雰囲気を含んでいたと感じたのは、ただの気のせいだったのかもしれない。


キャッキャウフフと楽しそうに笑いながら手を繋いで歩き始める美男美女カップルは、いつにも増して仲が良さそうで。


「これだからこいつらは…人の目も気にしないでイチャイチャと…」


そんな2人の後ろを歩く滝口君の面倒臭そうな声は、どことなく安心感を与えてくれる。


「でも、楽しそうだから良いんじゃない?」


彼の隣に並んだ私は、エナと空良君が浮かべているであろう満面の笑みを頭の中で想像し、くすりと笑みを漏らした。




「…此処か。お前の言ってた饅頭屋」


それから、『南山大江戸町』と書かれた木の札を横目にひたすら歩き続ける事20分弱。


本当に江戸時代に迷い込んだ様な街並みの中、私達はお目当てのお饅頭屋さんに到着した。



南山大江戸町は江戸時代を強く意識していて、瓦葺きの長屋や武家屋敷など、歴史の資料集でしか見た事のないような建物が所狭しと並んでいる。


それに、お店の店員やスタッフは皆着物を着たりちょんまげを結った格好をしているから、タイムスリップしたみたいで不思議な気持ちになってくる。


「凄い、」


思わず、そう声を漏らした時。



「いらっしゃいませー」


いきなり暖簾の隙間から手が出てきて、小袖に袴姿の男性が姿を現した。
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