あなたの落とした願いごと
リナちゃんはいつも胸までの長さの髪を巻いていて、毛先はオレンジ色に染まっている。

黒のリュックには目玉焼きの形をしたキーホルダーが付いていて、ラメ入りのネイルは欠かさない。

上履きとして緑色のクロックスを使っているから、足元を見れば一目で彼女だと分かるんだ。



そこまで推理しながらちらりと横を見ると、確かに黒髪ショートカットの女子と緑色のクロックスを手にした女子が仲睦まじく話しているのが視界に入ってきた。



但し、彼女達の顔は完全なるのっぺらぼうで。



それでも無事に推理が成功した事に安心感を覚えた私は、


(今日も上出来!)


と、自画自賛をしながら階段を上って行った。








どうして、私には人の顔がのっぺらぼうに見えるのか。


それは、私が人の顔を認識出来ず覚えられないという病気、“相貌失認症”を患っているから。


俗に“失顔症”とも呼ばれるこの病気は脳障害の一部らしく、私は小学校中学年の頃に診断を受けた。


でも実際は物心がついてからずっと、私は人の顔を“顔”として捉えた事がない。


自分を含めた全員の顔が同じに見えるから、私は顔で誰が誰かを判別する事が出来ないんだ。


目を凝らしたり集中すれば顔の一部は見えるから、目や鼻や口などの個々のパーツは捉える事が出来るのに、それを脳が“顔”と認識してくれなくて。
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