あなたの落とした願いごと
人がどの方向を向いているのかは分かっても、その表情まで見極めるのはとても難しい。


人間という生き物は表情をコロコロと変えるから、その度に顔ばかり凝視していては怪しまれてしまう。


だからこそ何とかして治したいと思っていたのに、この病気は治療法が確立されていないんだ。


だから、生涯この病気と付き合っていくなんて、考えただけでも精神がすり減りそうな感覚に陥るのもまた、事実だった。


そうは言っても、どんなに努力しても人を間違えてしまう事は避けられない。


だから、どうしたら人を間違えないかを考えた私が編み出した方法は、他人の顔以外の情報を出来る限り全て頭に叩き込む事だった。


顔の輪郭や眼鏡の有無から始まり、髪の長さや髪飾り、服や靴の系統、声の高さや口癖、アクセサリーの有無や持ち物…、挙げればキリがない。



わざわざ片道1時間もかかるこの高校に進学を決めた理由だって、此処が進学校な上にほとんど校則が無いという点に惹かれたから。


全員が同じ格好をしていたら人を区別するのは至難の業だけれど、学校指定の制服の着用以外の全てを生徒の自由にさせてくれるこの高校なら、他人の特徴を掴むのは容易い。



そして、私のこの病気を知っている人は家族と親戚、幼なじみと限られた数人の友達のみ。
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