あなたの落とした願いごと
「はい。20個入りだから、好きなだけどうぞ」


にこにこと笑顔を振り撒くと、


「さっすが沙羅ちゃん、この兄貴とは違って優しいねー」


南野家が購入した彼専用の箸で肉じゃがをつまみながら、拓海君はケラケラと笑い声をあげた。



その後、時間は瞬く間に過ぎていった。


夕飯を食べながら社会科見学の一部始終について事細かに話した私は、お饅頭屋さんで撮った写真を家族に見せた。


私の表情は想像以上に良いものだったらしく、兄と拓海君からベタ褒めされてしまった、恥ずかしい。


お土産屋さんでパニックを起こした事だけ端折って話し終えた私は、夕飯後に母親にハンカチを渡して。


早速クッキーを食べながらゲームを始めた兄達を横目にそそくさと部屋に帰還した私は、




「ああ待って私、…頭撫でられたっ、!」


ベッドに仰向けに横たわった今、エレベーターの中で滝口君からされた行為を思い出し、恥ずかしさのあまり絶賛悶えている最中である。


お腹がいっぱいになり身体も綺麗になり、完全にリラックスしている私の頭を支配しているのは、もちろん彼の事。


私自身トラウマが蘇るとは思っていなかったけれど、その後の彼の行動はもっともっと心外だった。


あの時はされるがままだったけれど、よくよく考えれば、私は彼に、頭を、…。
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