あなたの落とした願いごと
この病気の事を相手に伝えれば格段にコミュニケーションが取りやすくなるかもしれないけれど、知名度の低い病気だから理解してもらえるかも定かではない。


だから、私はこの高校で新しく出来た友達には自分の病気の事は言わず、出来る限り隠し通して過ごしていた。


今まで大きなミスをしてきていないから、多分このままいけば無事に卒業出来るはず。



きっと、大丈夫。



そんな風に回想を続けていると、いつの間にか4階の教室の前に辿り着いていたようで。


教室内からは既にキャッキャと騒ぐ女子達の声が聞こえてくるものの、私にはそれが誰の声なのかを知る術はない。


今年も、大きなミスなく1年が終わりますように。


星座占いも1位だったし、心配する事なんて何も無い。


私は、ただそれだけを祈りながら教室のドアを開けた。



瞬間。


「おは、…って、沙羅じゃん!」


黒板にチョークで落書きをしていた数人の女子のうちの1人が振り向き、嬉しそうに私の名を呼んだ。


この鈴の鳴るような明るい声の持ち主が誰なのかは、最早顔を見なくても分かる。


「エナ!おはよう、同じクラスだね!」


私の病気の事を知っている数少ない内の1人である彼女は、私の大切な幼馴染み。


そんな彼女がクラスメイトである事にようやく実感を抱いて、思わず笑みが溢れる。
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