あなたの落とした願いごと
そう決めた私は、至って普通を心掛けていたのに。


「ミナミ、こっち来いよ」


「お前に迷子になられたらこっちが困るからな」


どんな心境の変化があったのか、滝口君は事ある毎に私に話し掛けるようになった。


私が人混みを苦手としている事が分かったからか、集会の時は私の場所を空けておいてくれたり、私の様子がおかしければ心配してくれたり。


そりゃあ、まだ塩対応と毒舌は健在だけれど、何処か物腰が柔らかくなったような気がするのも否めなくて。


だからこそ何度も考えてしまうのは、彼がどんな表情で私に話し掛けているのか、という純粋な疑問。


小悪魔的な可愛さを誇る福田さんが彼に話し掛けた時は地面が割れる程の低い声で会話を終わらせるのに、私の時にはそれがない。


見てみたい、彼がどんな顔をしているのか、彼と話す時の私がどんな表情なのか。


そう思って、試験期間以外は1日も欠かさずに滝口神社にお参りに行っているのに、ひねくれ者の神様は願いを叶えてくれない。


それと同時に、私は、てっきり神社に訪れていると思っていた滝口君にも、ただの1度も遭遇していないんだ。



「だからこそ、神葉君。今回も僕は君にご指導ご鞭撻の程宜しく賜りたいのですが、もちろん良いですよね?」


不意に空良君の崩壊した敬語の駄文が聞こえてきて、我に返った私は苦笑いを浮かべた。
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