あなたの落とした願いごと
卓上に広げられた古文のワークとノートの上に手を置いてぐうの音を上げると、


「お前、こいつら二人と違って授業中起きてたくせに何聞いてたの」


と、まるで言い返せない言葉が降ってくる。


…そうだよね、私が自分自身にそう聞きたいよ。


滝口君に言われると、あんなに諦めたかったのに、褒められたいから勉強しなければという気持ちが先行してくる。


人の顔は見えなくても文字は読めるんだから、次こそは赤点を回避しないと。


自虐的にそんなことを考えたのもつかの間、


「駄目だ神葉君、この長文何言ってるかさっぱり分かんない!どこからどこまでが主語なのよこれ」


「やっぱ数学1問も解けないから休憩するわ。お前も一旦寝たら?」


前の席に座る2人が、同時に滝口君に向かって話しかけた。


「あのさ、見て分かんない?俺今ミナミの古文教えてるんだけど」


教科書を見る為に私の方へ顔を近づけていた彼が、小さく舌打ちをしたのが分かる。


そのままの流れで、優先順位はミナミの方が高いだろ、と呟くのが聞こえてしまったから、それが良いのか悪いのか分からなかったけれど、

私の心臓が彼に聞こえてしまうのではないかと焦るくらいに激しく鳴り始めたのが分かった。


一瞬ノートから顔を上げると、滝口君が困ったように眉根を寄せて私とカップルを交互に見つめているのが分かる。
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