あなたの落とした願いごと
「何が駄目だって?今度は何処が分かんないんだよ」


けれど運良く、滝口君は私が問題に行き詰まったのだと勘違いしてくれて。


「あ、ああ!そう、この辺りが分かんないんだよね!」


この好機を逃すまいと彼の言葉に乗っかった私は、これから取り掛かろうと思っていた問題を指さす。


どれどれ、と中腰になってこちらに近づいた彼の制服からは柔軟剤の良い匂いがして、


(心臓が持たない…)


滝口君と至近距離になっているという現実に緊張と喜びの感情を抱いた私は、彼が何をどう解説してくれたのかなんて一言も耳に入らなかった。



その後、


「今教えた方法使えば、残りの問題解けるはずだから」


というお言葉を頂いた私は、一心不乱に残りの問題に取り組んでいた。


前からは2人分の寝息、右隣からは滝口君がノートに答えを書き写す音が聞こえている。


滝口君、実際は影でもの凄く頑張っているんだな。


問題を解く手を止めずに、私はそんなことを考える。


学校にいるときの滝口君は、福田さんを中心とする女子達をあしらう事か睡眠に休み時間のほとんどの時間を費やしていて、授業中以外で教科書を開いているところを見た事がない。


まして放課後は部活動に勤しんでいるし、帰宅したら滝口神社の次期宮司になる為の勉強もしているだろうに。


女子達が彼を完璧主義人間と呼び称える理由が、本当の意味で理解出来た気がした。
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