あなたの落とした願いごと
彼は確実に私の方を向いて寝ているのに、

その無防備なはずの寝顔も、笑顔も面倒臭そうな顔も、“格好良い”ともてはやされる彼の表情の何もかも、

私は一瞬たりとも見る事が叶わない。


「滝口君、...」


小さな声で名を呼んでみたけれど、夢の中に居る彼はびくともしない。



私も、貴方に対して“格好良いね”と言ってみたい。


私は頬杖をつき、何も無い彼の顔を見ながら心の中で静かに語り掛ける。


私は、最初こそ近寄り難かった貴方が何だかんだ言って友達思いなのも、こうやって嫌々ながら勉強に付き合ってくれるのも、

泣いたら頭を撫でてくれる優しさも、不意に声をあげて笑うのも、

本当に素敵だなって、心から思っているんだよ。



自分の顔が見えないのは構わないの、得になる事なんて何にもないから。


でも、でもね。


(神様、)


心の中で、私は見えない存在に向かって呼び掛ける。


欲を言えば全員の顔を、笑顔を見てみたかったけれど、それが大変なら1人だけでいい。



私は、滝口君の顔を見てみたい。



そうしたら、私は今よりももっともっと彼を素敵で格好良いと思えるはずだから。



だから、

彼の顔を、笑顔を、見せて下さい。



「っ.....、」


そう強く願った瞬間、心臓の鼓動が速まるのを感じた。


まただ、駄目だって分かっているのに。
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