あなたの落とした願いごと
でも、今の私の願いは、今まで神社で毎日願っていたものよりも遥かに強い。



(これって、私がこんなに滝口君を見たいって思うのって、つまり...)


穴が空く程に滝口君を見つめていた私は、ゆっくりと両手で頭を抱えた。


もしかしたら、この気持ちはもう、“吊り橋効果”なんて言葉に縋れないくらいに大きくなってしまっているのかもしれない。


「嫌だ、...嫌だよ、わたし、」


この気持ちに、名前は付けちゃいけなかったのに。





私は、滝口君に、恋をしている。





こんな事、許されないのに。


相手の顔が分からないのに人を好きになるなんて、そんなの両者共に苦しむだけだって、嫌という程理解しているのに。


だからこそ、私は今まで恋をしてこなかったんだ。



滝口君の事を本当に好きになってしまったという事実を到底受け入れられない私は、声を出さない様に両手で口を押さえ、ゆっくりと反対方向を向いた。


福田さんがいる時点でこの恋には勝ち目がないし、そもそもこんな病気を抱えている時点で、私は福田さんと同じ土俵にすら立てていない。


「っ、...」


分かりきった現実を目の前にして、意図せずとも涙が零れ落ちてくる。


店員達に気付かれないように、寝ている友達を起こさない様に、必死で唇を噛み締めた。


けれど、肩が震えるのは隠し切れないみたいで。


自分の気持ちに名を付けてしまった今、

これは、私にとって初めての恋の、終わりの始まりだ。


そう悟った私は、それからずっと涙を飲み込むのに必死だったから、何も気付かなかった。




眠っていたはずの滝口君の目がぱちりと開いて、身体を1ミリも動かさないまま、

私の方を、ただじっと見つめていた事に。


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