あなたの落とした願いごと
確かに今日は古文の答案が返却される日だから、滝口君がそう考えるのも無理はない。


彼の予想は全くの的外れだけれど、その内容は絶妙に私のプライドを壊していく。


天才な彼は試験終わりに涼しげなオーラを放出していたから、きっと今回も学年1位の座は誰にも譲らないのだろう、なんて羨ましい。


「…そうやって考えてて下さい」


言い返すのも面倒になり、上目遣いで滝口君を睨むと、


「はいはい。あ、学校一緒に行こうぜ。お前のせいで遅刻したくねーから」


信じられない事に、滝口君からお誘いの言葉を頂いてしまった。


「…え?」


耳を疑った私は、まじまじと隣に立つ長身を見つめる。


私と一緒に学校…いや、この流れならそうなるだろうけれど、だからって、少し間違えたら、

滝口君が、私に気があるみたいに聞こえてしまうではないか。


(ああ…自分、相当な重症だ)


そんな風な思考を抱いてしまう自分が自分で恥ずかしくなる。


「っ、うん…!」


頬が熱くなっている気がする、大丈夫かな。


「じゃ、俺押すから歩いて」


不自然にならないように頬に手を当てながら頷いたら、いきなりリュックを押された。


「ちょ、」


「ほら、歩いた歩いた」


最初こそよろけたものの、滝口君がリュックを押す手は以前と同じく優しいもの。


誰にも見られず、2人だけで少しの楽しさを分け合う。


これって、本物の青春みたい。
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