あなたの落とした願いごと
「そこ段差あるから」


彼の声は冷たくなくて、笑っているのが分かる。



滝口君が私をどう思っているか分からないけれど、

私にとっては、この瞬間が本当に嬉しくて楽しくて、宝物だ。



この流れが自然過ぎて、滝口君と一緒に登校出来るという喜びに舞い上がっていた私は、何の疑問も抱かなかったんだ。



私を待っていた訳では無い滝口君が、神社に入らずに鳥居の前に立っていた、その理由に。




「そういえばさ」


神社から比較的離れた所で信号待ちをしていた時、いきなり滝口君に話し掛けられた。


「何?」


声のする方を仰ぎ見たものの、日光が後ろにあるせいか、彼の姿は光り輝いていて。


「お前、俺の神社に何が祀られてるか知っててお参り行ったんだよな?」


そのまま光の粒となって消えてしまいそうな滝口君の言葉は、私の動きを止めるには十分な威力があった。


「あ、ああ。...んー、そうだね」


何とも言えない返事をする傍ら、私の背中からは冷や汗がダラダラと流れ出す。


だって、神社に祀られている神様なんてどれも同じだと思っていたし、まさかこんな質問が来るなんて夢にも思っていなかったのだから。


「知ってるんだよな?」


ああほら、彼の語尾に力が帯びてきたよ。


滝口君の第二の家に祀られる神を知らないなんて答えたら、きっと怒られるだけでは済まされない。
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