あなたの落とした願いごと
背中にじとりとした視線を感じて、震え上がりそうになる。


「おい。青」


いきなりリュックが優しく押されたから、私はその反動で我に返る。


そのまま横断歩道を渡りながら、斜め後ろに居る次期宮司さんに向かって勇気を出して話し掛けた。


「ごめん、…知らない」



横断歩道を渡り終えた瞬間、後ろから長く深い溜め息が聞こえた。


「だろうな。どうせお前の事だから無能のまま行ったんだろうと思ったわ。それに、その願いも大した事ないしな」


「っ、」


確かに滝口君に比べたら頭は悪いけれど、何と癪に障る感想だろうか。


人の顔を見る事が当たり前に出来ている滝口君にしてみれば小さな事かもしれないけれど、私にとったら”大した事”だ。


今日からその願いは少し変わってしまったけれど、元を辿れば、私の人生を変える程の大きく切実な願いだったのだから。


くるりと後ろを振り返り、何か言い返そうと口を開いたけれど、

冷めた目をしているであろう彼の顔は相変わらずのっぺらぼうだったから、諦めて口を尖らせるだけにしておいた。


「何だよその顔」


滝口君の声は冷たくて、本気か冗談かまるで分からない。


(何なのこの病気!滝口君の表情が分からなくて本当にむかつく!)


滝口君ではなく、あくまでも病気に対して心の中で悪態をつく。


すると。


「1回しか言わないから覚えとけよ」
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