S系御曹司は政略妻に絶え間なく愛を刻みたい~お見合い夫婦が極甘初夜を迎えるまで~

 病室に飛び込むと、頭に包帯を巻かれた祖父が元気そうにそこにいた。

「一歩遅かったな。私は元気だ」
「また……あなたは……」

 思わず安堵のため息とともにそう言う。
 祖父から、怪我をして病院にいると連絡をもらったときは、心臓が止まりそうになった。それくらい、祖父は両親のいない自分にとって大事な存在だった。

 祖父は、苦笑して口を開く。

「すまないな。菅原に言うとこっぴどく怒られそうだし、秘密にしておいてくれ」
「それは聞けません。もう菅原さんには伝えてきました。怒り心頭です」
「えぇ……」

 祖父は、本当に嫌そうに眉を寄せる。
 祖父の第一秘書の菅原は完璧な秘書だが、相手が日本有数の大企業の総帥であろうと容赦しない物言いをするので、祖父が唯一恐れている相手でもある。

「……そんなに怒られるのが怖いなら、どうして勝手に一人で出歩くんですか」
「少し考えごとをしたくてな」

 祖父は大事な決断をしたいとき、一人でスマホもお金も持たず、さらに一般の人には大企業の総帥と分からないようなラフすぎる格好で出歩くことがある。
 今日はその際に運悪く、立ち眩みを起こして倒れたそうだ。さらに頭を石か何かにぶつけたらしく、出血もして大変だった。と、まるで他人事のように頭に包帯を巻いた祖父は言う。

「せめて菅原を連れて出て下さい。年齢も年齢ですし、心配ですから」
「また私を年寄り扱いして」

 子どもみたいに怒る顔。
 これは菅原と自分以外には見せない祖父の表情だ。そんなことが少し嬉しいとか感じる時点で、結構自分は祖父のことが好きなんだろう。
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