S系御曹司は政略妻に絶え間なく愛を刻みたい~お見合い夫婦が極甘初夜を迎えるまで~
22章:彼女と俺のこと②(side 要)

 それから5ヶ月ほどして、俺は突然、祖父に一番下の姪のピアノコンクール予選を見に行くように頼まれる。

 ピアノは自分も少し嗜んでいたが、それほど好きではなく、最低限をこなすとすぐにやめてしまった。

 さらに久しぶりの休日だったから、普段できない仕事の調査や下調べをしようとしていたので、内心舌打ちした。

 しかし、祖父があまりにも強く言うので断ることもできず、諦めて会場に向かった。

 そしてその会場で、パンフレットの中に『Iroha Nanase』の名を見つける。

「七瀬……いろは」

 思わずつぶやいて、それから舞台上を見ていると、本当にあの時の女の子が登場した。
 あの汚れた服装とは違って、赤いドレスに身を包む彼女はとても綺麗だと思った。
 
 ピアノの演奏を聴いて、ますます釘付けになった。

 きっと素直な子の音って、こうなんだろうな……。
 あまりピアノは好きでもなかったのに、聴き惚れた。

 なにか伝えずにはいられなくて、でも、こんな年上の男に話しかけられるのも気持ち悪かろうと、彼女宛てのメッセージカードを受付に託した。

『とてもまっすぐで綺麗な音色なので聴き惚れました。本選は聴きに行けませんが、うまくいくよう陰ながら応援しています』

 姪に挨拶してそれから家に帰ると、外出していた時間が嘘のように仕事がはかどって驚いた。

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