S系御曹司は政略妻に絶え間なく愛を刻みたい~お見合い夫婦が極甘初夜を迎えるまで~
それから一か月後の日曜。休日出勤で、営業部長だった佳奈美と仕事の営業先に向かっていると、明らかに困っている様子のいろはを駅で見かけた。
(あれ? 今日って、本選の日じゃないのか……?)
そう思ってヒヤリとしていると、佳奈美が話しかけてくる。
「さ、少し早いけど行きましょうか」
「ちょっと待って。あの子、困ってるみたいだ」
「あの子って……?」
俺が指さすと、佳奈美が、あぁ、と頷く。
それと同時に、俺の足は彼女のもとに勝手に進んでいた。
「大丈夫?」
「すみません、電車の乗り方が分からなくて……どれに乗ればいいのか……お聞きしてもいいですか?」
顔をあげた彼女を間近で見て、なぜかぎゅっと心が掴まれたような気がする。
それが何か分からなくて、俺は慌てて平静を装った声を出した。
「どこまで?」
「新大塚という駅です」
そこにはホールがあるから、やはり本選か……。
俺は不安そうな彼女を安心させようと、できるだけゆっくりと話した。
「難しいよね。俺も昔そうだったんだ。でも、すぐわかるよ。よく聞いて」
できるだけ丁寧にメモをしながら行き方を彼女に教えた。
彼女は真剣な眼差しでそれを聞いていた。隣から彼女息遣いが聞こえてくると、やけに自分の心臓の音のほうがうるさく鳴り響いた。