S系御曹司は政略妻に絶え間なく愛を刻みたい~お見合い夫婦が極甘初夜を迎えるまで~

「なに?」
「あの日、要さんに初めて出会った日ね。私、ピアノのコンクールの本選だったんです。渋滞にはまって車は動かなくて、もう諦めるしかないなって思って」
「でも諦めなかった?」

「はい。予選の時に誰かはわからないけど、『とてもまっすぐで綺麗な音色なので聴き惚れました』ってメッセージをくれたんです。それで、こんな私の演奏でも誰かが見ててくれたんだって嬉しくて、それ思い出したら諦めたくなくなって。普段そんなことしないのに、電車にしようって決めて一人で駅まで走り出しました」

 そう言うと、要さんは少し驚いたように私を見ていた。私は続ける。

「私はそうして見てくれていた人に背中を押されたんですよね」

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