S系御曹司は政略妻に絶え間なく愛を刻みたい~お見合い夫婦が極甘初夜を迎えるまで~
そして眠りにつく準備ができた時、私はあることに気づいた。
寝室が、そして、ベッドが一つしかないのだ。
「寝室……なんでベッド一つなんでしょう」
「夫婦なんだ。当たり前だろう」
部長は飄々と言う。
「といっても……私、人と一緒に寝たことなんてないです」
男の人と二人の空間と言うのもほとんどないが、
そもそも女性とだって、こんな風に枕を並べたことは覚えている限りで全くない。
「親兄弟は?」
「入籍するときに一度お話ししましたが、母は早くに亡くなっています。父も兄もずっと忙しかったので一緒に寝たことはありません」
父も兄も、自分と会社のことで精いっぱいだった。
毎日遅くて、私は一人でベッドに入っていた。
しかし、それが悲しいと思ったことはない。
それは、私の役割で、私にできる唯一のことだったのだ。
私は部長の方を見つめると、
「私、リビングのソファで寝ます。部長はここでどうぞ」
と頭をぺこりと下げる。
そして、踵を返して寝室を出ようとした瞬間、腕が掴まれた。