The holiday romance
冷たい嘘
ゴルフの後、ユキは友人の妻たちとテーブルを囲み、夫たちは異なる席で男子特有の下世話な話しをしていた。
彼女たちの話はいつでも子供が中心でユキは肩身が狭くなる。
「今日は出かける前に息子が駄々をこねて大変だったわ。」
「ウチの娘なんかおねしょして大騒ぎだった。
ユキさんが羨ましいわ。
子供が居たらこういつも綺麗にはしてられないもの。」
そんな会話が嫌味に聞こえてしまうほどユキは子供のことでは敏感になっていた。
もちろんユキの嫉心からなのだが、子育てもしたことのないユキは彼女たちに見下されている気がしてならないのだ。
二男の嫁だから長男の嫁よりはずっと気楽だが、それでもやはり子供を産まないと一人前扱いされていない気がしてしまう。
ただ、ハジメもハジメの両親も不思議なほどユキの不妊に無関心だった。
「ここだけの話…ユキさんて次男のお嫁さんだからあえて作らないように言わてるの?
五明グループともなると後継者問題とか大変そうだもの。」
「え?」
そんな話はユキには寝耳に水だった。
いくらなんでもそんな噂が流れてるなんてあまりにも酷すぎる。
「まさか!違いますよ。
夫も私も子供は欲しいです。
でもこればっかりは授かりものですから。」
「レス…とかじゃないのよね?」
「ホント違いますから。」
ユキは笑って見せたが心の中は穏やかではない。
ユキは化粧室に行くと言って席を立った。
「ユキさんてやっぱり何にも知らないのね。
ここだけの話、あのご主人、子供できないように手術してるらしいわよ。」
「えー!それホントなの?
それにしてもあなた、言い過ぎよ。
デリケートな問題なんだからもう少し慎むべきだわ。」
「でもホントなのよ!
この前、ウチの夫が話してるの偶然聞いちゃったんだから。」
彼女は大きな病院の院長の長男の嫁である。
そしてその夫はハジメの結婚前にハジメのその手術を担当した医師だった。
「子供は作らない。作りたくないんだ。
あの家に生まれても幸せにはなれないから。
オレはね、自分の親みたいに子供にしたくもない仕事させたり、政略結婚させたりしたくないんだ。」
「ホントに良いのか?
奥さんになる人がこのことを知ったら大変なことになるぞ。」
「彼女には申し訳ないが、
子どもが家の犠牲になるよりはマシだろう。」
ハジメがそのことを両親に告げると
もちろん反対はしたがハジメの意志は固かったし
ハジメの父にとっては次男の孫よりユキの家との繋がりを失う方が大きな問題だった。
ハジメは好きな相手と結婚させてもらえなかった腹いせにユキの気持ちも考えずに手術した。
もちろん、今の今までユキは気付くことなく
子作りに協力してくれてる思っている。
そして隠し通したハジメの冷たい嘘がユキの耳に入る時が来る。
ユキの鈍感力はここで限界を迎えた。
「ホントにハジメは酷いやつだよ。
オレはユキさんが不憫で見てられないよ。」
化粧室にユキが居ると知らずにハジメの友達が喫煙室に向かう通路で話しているのを耳にしてしまった。
「それにしてもよく8年も隠して夫婦続けてるよな。
アイツのしてること考えたら胸糞悪くて
友達辞めたくなるわ。」
「まあまあ、ハジメだってあの家のせいでマユコちゃんが愛人にさせられたんだぞ。
財閥に生まれるって不自由だし、実は可哀想なヤツなんだよ。
それにマユコちゃんの方に子供が出来たらそれこそ大問題だろ?」
「それにしても酷すぎるだろ?
マユコちゃんもだけど何にも知らないで嫁に来たユキさんはもっと可哀想だろ?
愛人がいるのだってショックなのに
子供も持てないって知ったら…オレは…」
「お前、その話気安くするなよ!
手術したオレの立場も考えてくれよ。」
ユキは耳に入れまいと思ったが、愕然として脚が動かずその場から離れることも出来なかった。
浮気をしてるかもしれないとは思ったことは何度もあるが
子どもを作る事も出来ないとは考えもしなかった。
月に一度ハジメはどんな気持ちで自分を抱いていたのだろうと考えるとユキの頭の中はパニックを起こして真っ白になった。
立っていられなくなり、
化粧室の入り口でうずくまっているところを
ゴルフ場のスタッフに発見されて
ユキは医務室へ連れて行かれた。
「大丈夫ですか?
今、ご主人をお呼びしますね。」
スタッフの女性がペットボトルの水を手渡して
ハジメを呼びに行った。
「ユキ、大丈夫か?」
目の前のハジメの顔を見てユキは普通に微笑んで見せた。
「ごめんなさい。
少し調子が悪いみたい。
申し訳ないけど先に帰ってもいいかしら?」
平然を装っていたユキだが、ハジメには普通じゃないことがわかった。
「ストレス性のものじゃないかと思いますが、ご心配ならきちんとした病院で診てもらって下さい。」
と医務室の看護師が説明した。
「ユキ、このまま一緒に帰ろう。」
そんなハジメの優しさが作られているものだと思うと吐き気がした。
「大丈夫。運転手さんに送ってもらうから。
久しぶりに集まったのに2人で抜けたら皆さんに申し訳ないわ。貴方はまだここに居て。」
ハジメは運転手を呼んでユキを無事に家まで送るようにと念を押した。
そして自宅にかかりつけの医師を呼んで待機しておくように伝えた。
ユキが家に着くとかかりつけ医が待っていた。
医師の診断を受けて異常がないことをハジメに連絡して帰ってもらうとユキは旅支度を始めた。
これ以上ハジメの顔を見る自信がなかった。
だから置き手紙を残して家を出た。
そしてあてもなく一番早くきた電車に乗った。
彼女たちの話はいつでも子供が中心でユキは肩身が狭くなる。
「今日は出かける前に息子が駄々をこねて大変だったわ。」
「ウチの娘なんかおねしょして大騒ぎだった。
ユキさんが羨ましいわ。
子供が居たらこういつも綺麗にはしてられないもの。」
そんな会話が嫌味に聞こえてしまうほどユキは子供のことでは敏感になっていた。
もちろんユキの嫉心からなのだが、子育てもしたことのないユキは彼女たちに見下されている気がしてならないのだ。
二男の嫁だから長男の嫁よりはずっと気楽だが、それでもやはり子供を産まないと一人前扱いされていない気がしてしまう。
ただ、ハジメもハジメの両親も不思議なほどユキの不妊に無関心だった。
「ここだけの話…ユキさんて次男のお嫁さんだからあえて作らないように言わてるの?
五明グループともなると後継者問題とか大変そうだもの。」
「え?」
そんな話はユキには寝耳に水だった。
いくらなんでもそんな噂が流れてるなんてあまりにも酷すぎる。
「まさか!違いますよ。
夫も私も子供は欲しいです。
でもこればっかりは授かりものですから。」
「レス…とかじゃないのよね?」
「ホント違いますから。」
ユキは笑って見せたが心の中は穏やかではない。
ユキは化粧室に行くと言って席を立った。
「ユキさんてやっぱり何にも知らないのね。
ここだけの話、あのご主人、子供できないように手術してるらしいわよ。」
「えー!それホントなの?
それにしてもあなた、言い過ぎよ。
デリケートな問題なんだからもう少し慎むべきだわ。」
「でもホントなのよ!
この前、ウチの夫が話してるの偶然聞いちゃったんだから。」
彼女は大きな病院の院長の長男の嫁である。
そしてその夫はハジメの結婚前にハジメのその手術を担当した医師だった。
「子供は作らない。作りたくないんだ。
あの家に生まれても幸せにはなれないから。
オレはね、自分の親みたいに子供にしたくもない仕事させたり、政略結婚させたりしたくないんだ。」
「ホントに良いのか?
奥さんになる人がこのことを知ったら大変なことになるぞ。」
「彼女には申し訳ないが、
子どもが家の犠牲になるよりはマシだろう。」
ハジメがそのことを両親に告げると
もちろん反対はしたがハジメの意志は固かったし
ハジメの父にとっては次男の孫よりユキの家との繋がりを失う方が大きな問題だった。
ハジメは好きな相手と結婚させてもらえなかった腹いせにユキの気持ちも考えずに手術した。
もちろん、今の今までユキは気付くことなく
子作りに協力してくれてる思っている。
そして隠し通したハジメの冷たい嘘がユキの耳に入る時が来る。
ユキの鈍感力はここで限界を迎えた。
「ホントにハジメは酷いやつだよ。
オレはユキさんが不憫で見てられないよ。」
化粧室にユキが居ると知らずにハジメの友達が喫煙室に向かう通路で話しているのを耳にしてしまった。
「それにしてもよく8年も隠して夫婦続けてるよな。
アイツのしてること考えたら胸糞悪くて
友達辞めたくなるわ。」
「まあまあ、ハジメだってあの家のせいでマユコちゃんが愛人にさせられたんだぞ。
財閥に生まれるって不自由だし、実は可哀想なヤツなんだよ。
それにマユコちゃんの方に子供が出来たらそれこそ大問題だろ?」
「それにしても酷すぎるだろ?
マユコちゃんもだけど何にも知らないで嫁に来たユキさんはもっと可哀想だろ?
愛人がいるのだってショックなのに
子供も持てないって知ったら…オレは…」
「お前、その話気安くするなよ!
手術したオレの立場も考えてくれよ。」
ユキは耳に入れまいと思ったが、愕然として脚が動かずその場から離れることも出来なかった。
浮気をしてるかもしれないとは思ったことは何度もあるが
子どもを作る事も出来ないとは考えもしなかった。
月に一度ハジメはどんな気持ちで自分を抱いていたのだろうと考えるとユキの頭の中はパニックを起こして真っ白になった。
立っていられなくなり、
化粧室の入り口でうずくまっているところを
ゴルフ場のスタッフに発見されて
ユキは医務室へ連れて行かれた。
「大丈夫ですか?
今、ご主人をお呼びしますね。」
スタッフの女性がペットボトルの水を手渡して
ハジメを呼びに行った。
「ユキ、大丈夫か?」
目の前のハジメの顔を見てユキは普通に微笑んで見せた。
「ごめんなさい。
少し調子が悪いみたい。
申し訳ないけど先に帰ってもいいかしら?」
平然を装っていたユキだが、ハジメには普通じゃないことがわかった。
「ストレス性のものじゃないかと思いますが、ご心配ならきちんとした病院で診てもらって下さい。」
と医務室の看護師が説明した。
「ユキ、このまま一緒に帰ろう。」
そんなハジメの優しさが作られているものだと思うと吐き気がした。
「大丈夫。運転手さんに送ってもらうから。
久しぶりに集まったのに2人で抜けたら皆さんに申し訳ないわ。貴方はまだここに居て。」
ハジメは運転手を呼んでユキを無事に家まで送るようにと念を押した。
そして自宅にかかりつけの医師を呼んで待機しておくように伝えた。
ユキが家に着くとかかりつけ医が待っていた。
医師の診断を受けて異常がないことをハジメに連絡して帰ってもらうとユキは旅支度を始めた。
これ以上ハジメの顔を見る自信がなかった。
だから置き手紙を残して家を出た。
そしてあてもなく一番早くきた電車に乗った。