The holiday romance
運命
ユキは札幌の夜の街を1人で散歩した。

美味しそうな匂いがして
何を食べようか迷っていた。

(ジンギスカンかぁ。
でも1人で食べる人いるのかしら?

やっぱりスープカレーとかお寿司のが良いかな?

あー、味噌ラーメンも良いな。

…にしてもどんなことがあってもお腹は空くのね。)

食べ物を選んでる間は嫌なことを忘れられた。

ユキは結局、スープカレーのお店に入ってその夜の空腹を満たした。

そしてホテルに戻って明日の予定を立てる。

「市場で海鮮丼とかいいなぁ。」

スマートフォンで色々調べているうちに疲れたのか眠ってしまった。

今日は色々ありすぎて心も身体もボロボロだった。

ハジメのことはなるべく考えないようにしていたがふとした瞬間に涙が溢れそうになった。

そんな長い1日が終わった。

次の朝は早く目が覚めて早速市場に出かけた。

市場は活気があって働く人の生き生きとした姿を見るとユキも元気をもらえた。

その後は大通公園へ行き、
時計台にも行ってみた。

そこでユキは1人の旅行者に出逢った。

「これが時計台か。
思ってたよりちっさいな。」

自分と同じ意見の青年の声に思わず振り向いて顔を見てしまった。

青年は目が合うと恥ずかしそうに
「すいません。」
と笑った。

背が高くて何ともスタイルのいい
笑顔の可愛い青年である。

「私も同じこと思いました。」
とユキが笑いかけると
「ですよねぇ。」
と青年もまた笑った。

「でも時計台自体はとても素敵ですよ。
ただ周りに大きな建物が多いからそう見えちゃうんだと思うんですよね。」

「なるほど。」

青年は初対面なのに嫌な顔もしないでちゃんと話を聞いてくれた。

ユキの今まで知ってる人にはいないタイプで見栄を張ることもせず素直で話しやすかった。

ユキはもっと彼のことを知りたくなった。

「北海道は初めてですか?」

「はい、お姉さんも初めてですか?」

「お姉さん」という呼びなれない呼び方に少し気恥ずかしさを感じる。

「初めてです。」

「お姉さんはこれからどこ行くんですか?」

「夜はビール園でジンギスカンでも食べながら美味しいビールを飲もうかなって…
あ、食べました?ジンギスカン。」

「いえ、1人だと食べづらいっていうか…」

「そうですよね?
あの…予定が決まってないなら…良かったら今夜一緒にどうですか?ジンギスカンでビール。」

ユキは自分の発した言葉に自分でビックリしてしまった。

知らない男の子を警戒もせず
自ら誘ってしまうなんてと急に我に帰った。

「あ、すいません!いきなり知らない人に誘われても困りますよね。しかもこんなオバさんに…」

「え?全然オバさんじゃないですよ!
すっごい綺麗だし…
嬉しいです!

俺も1人でジンギスカンて寂しいなぁって思ってたから有難いです。
遠慮なくご一緒させて頂きます!」

ユキにとってはすごい冒険だったが
男の子の方はわりと軽い感じでオッケーしてくれた。

(まぁ、ジンギスカン食べるだけだしね。)
と気楽に考えることにした。

「あの…お姉さんはもうお昼は食べました?」

「え?」

そういえば朝早く市場でたくさん食べたのに
もうお腹が空く時間だった。

「あ、もうそんな時間ですね。
せっかく札幌に来たからお昼は味噌ラーメン食べようかなって。
もう食べました?味噌ラーメン。」

「いえ、まだです!
俺、ちょうど食べようと思ってて、
オススメの店調べてきたんで…
もし行く店まだ決まってないならそこに一緒に行きませんか?」

旅の相棒を見つけてお互い気持ちが昂っていた。

そして青年のオススメのラーメン屋さんに2人で入った。

「お姉さんも一人旅ですか?」

知らない若い男の子に「お姉さん」と言われる度にユキは恥ずかしくなる。

「そのお姉さんてやめて。」

「じゃあなんで呼べば?
俺のことはシンて呼んでください。」

「シンくん…ね。

私はユキ。よろしくね。」

「ユキさん。」

「はい。」

シンと目が合うたびにユキの胸は高鳴った。

そしてシンも異性としてユキを意識した。

淑やかで美しいユキがたまに見せる隙に
シンの気持ちが揺れる。

「ユキさんは…いつまでここに居ますか?」

ユキはなんと答えたら良いかわからなかった。

「決めてないの。
今の気持ちが整理できるまでは北海道に居ようかなって思って…」

それを聞いたシンはこれ以上聞くのは悪いと思った。

実は自分自身もここには気持ちの整理に来たからである。

「じゃあ俺と同じだ。
俺もね、そんな感じです。
アテもなくフラッと思いつきでここに来たんで…。」

ユキはシンに不思議な縁を感じた。

「なんか気が合っちゃた感じですね。
私たち。」

「そうですね。
同じ場所に同じ時間に旅で会うってかなりの確率だと思います。」

その時に見たシンの目があまりに綺麗でユキは眩しくて少し目を伏せた。

2人は少し早めにビール園に着いて
博物館に行ったり工場を見学した。

ビール園での食事は楽しいものだった。

アルコールの力で二人で冗談を言い合ったり、軽い身の上話をしたりして笑い合った。

「こんなに美味しいお酒は初めて。」

「え?あー、工場ですもんね。」

「それもあるけど…そういうんじゃなくてこんなに楽しい気持ちでお酒飲んだことなくて…」

シンはユキが一般人じゃないのではないかと思い始めている。

シンの知ってる女性たちとはノリも違うし
着てるものも全く違う
今まで会った事のないタイプだった。

「もしかしてすごーく良いとこのお嬢さんだったりします?」

「まさか!もうお嬢さんじゃないですよ。」

ユキは一瞬ドキッとしたが自分は何者でもなく
ただの置き物みたいな嫁だと思った。

時間を忘れて話していたが周りを見渡すと
もう食事している人はほとんどいなかった。

「そろそろ閉店時間ですね。」

シンがそう呟いて
ユキはなんとなく寂しくなった。

1人になってハジメのことを考えたくなかったし、何しろシンと話すのは楽しかった。

もちろんシンもまだ終わりにしたくなかった。

少し酔ったユキの大人の色香にシンの心は既に奪われていた。

「あの、札幌市内で飲み直しませんか?」

シンは思い切ってユキを誘った。

ユキはシンが誘ってくれたことが嬉しくて
「もちろん良いですよ。」
と笑顔で返した。

「ユキさん、どうせならすすきの行ってみませんか?」

「良いですね。ちょっと行ってみたかったけど女1人で行くところじゃないかなって思って。」

「あー、歓楽街って言われると男の遊び場みたいな感じしますよね。
でもね、女の人が飲める場所も沢山あるみたいですよ。」

そして2人はすすきのにある海鮮居酒屋に入った。
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