The holiday romance
シンの傷
2人で入るには狭くてお互いの身体が触れた。

シンはユキと目が合うと笑顔になって優しくキスをした。

「ユキさん、めっちゃエロい。」

「それって褒めてるの?」

「褒めてます。
すごい気持ち良かった。」

「やめて。もう感想要らないから。
恥ずかしくて…自分じゃないみたいで…」

「こっちが本来のユキさんかも知れないですよ。
ユキさんは愛され方を知らなかっただけで…
実はこういうエロいHが好きかもしれない。」

無邪気に笑うシンにユキは笑顔を見せながらも
シンとは違う感情が頭の中にあった。

壊れかけてるとはいえ、自分はハジメの妻で五明グループの嫁なのだ。

シンのように通りすがりの相手との情事の余韻に浸っていられるほど能天気ではいられなかった。

シンはユキの脚を洗っているうちにまたユキが欲しくなりユキの身体に舌を這わせる。

ユキは抵抗したが、すぐにまた快楽の波に引きずり込まれる。

「もうダメ…ユキさんの身体エロくて…おさまんないって。」

ユキの深刻な気持ちはシンの舌で振り払われる。

シンが触れている間はハジメのことを考えずに済んだ。

その夜、抱き合ったベッドの中でユキに腕枕をしながら
シンは突然自分の話を語り始めた。

「実は何でこんな旅をしてるのかと言うと
俺…会社辞めさせられたんです。

そりゃもう理不尽に罪を着せられて。」

ユキはシンの目を見て髪を撫でた。

それだけでシンは少しずつ癒されていく。

「酷い会社ね。

どんな罪を着せたの?
まさか横領とか?」

ユキはシンが何かにとても傷ついてるとは思っていたが、まさかその話を通りすがりの自分にしてくれるとは思わなかった。

シンはずっと誰かに自分の話を聞いて欲しかった。

「実は会社の偉い人が悪いことしてることに偶然に気がついてしまったんです。

それを上司に相談したら
なぜかその不正したのが俺だって噂になって…会社からも疑われて…

違うって言いましたけど…誰にも信じてもらえなくて

結局、その偉い人に脅かされて自主的に退社しろって言われて居られなくなったんです。

相手が悪くて…反発も出来なかった。
そりゃ入社3年目の俺なんか…偉い部長様からしたら簡単に潰せる小さい虫みたいな存在ですよ。

でもこの先の俺はどうなるんですかね?

まともに再就職出来るかもわかんないし
頑張ってやっと入った会社なのに…」

ユキはシンの身の上に起きた話を聞いて
まるで自分のことのように悲しくなった。

「大丈夫。やり直せるわ。
そんな会社不当解雇で訴えてやれば?」

「向こうは大手ですから…俺一人頑張ったところで簡単に潰されますよ。」

ユキはそう思うシンの気持ちがわからないでもなかった。

強者は常に弱者に対して残酷だ。

それはハジメと自分の関係で実証されている。

だから尚更シンを応援したくなった。

「シンくんは心が綺麗だからきっとわかってくれる人がいるわよ。

少なくとも私はシンくんを信じる。

だからそんな顔しないで。

きっと大丈夫だから。」

ユキはシンを守ってあげたいと心から思った。

「ありがとう。」

シンの傷は当分癒えることは無いけれど
誰にも言えなかった真実を誰かに話すだけで随分気持ちは楽になった。

「ユキさんは…何があったの?

あ、話したくないなら話さなくて良いですけど…
話すと少し楽になります。

俺も今、ユキさんに聞いてもらってすごく軽くなりました。」

ユキはしばらく黙っていた。

そしてシンの顔を見て微笑むとシンがしてくれたような優しいキスをした。

「私ね、今家出してるの。」

「え?」

シンは少し驚いたように見せたが
実は自分の中でユキは多分既婚者だと想像がついていた。

「ユキさん…もしかして結婚してる?」

ユキは素直に答えた。

「うん。ごめんね。
夫が居るのにシンくんと出逢ったその日にこんな…信じられないよね。
軽くて馬鹿だって思ったでしょ?」

シンは横に首を振って
「思いませんよ。
それに悪いのはきっとユキさんじゃなくてご主人だって思うから。」
とユキの味方をしてくれた。

「主人と私はね、親が決めた結婚なの。

主人には好きな人がいて…
私とは結婚したくなかったの。

でも…主人のご両親は2人を無理やり引き離して私と結婚させたの。」

シンは今までに聞いたことのないドラマみたいな話に相槌を打つしかなかった。

「それで主人は私と結婚した後もずーっとその人と別れないで繋がってたの。
私は今までそれを知らずに居ただけ。
っていうか…気付かないフリをしてたの。」

ユキはもちろんそれ以上の話はしなかった。
手術のことはあまりにもつらくてとても口に出来なかった。

「じゃあ結婚する前からずっとユキさんの他に女がいたってこと?
それ、相当酷いです。」

そう言ってシンはユキを思い切り抱きしめた。

「別れちゃえばいいんです。」

シンは簡単に言うがユキにはシンが思うよりずっと難しいことだった。

それでもユキはシンの楽天的な励ましの言葉に少し癒されていた。
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