君が望むなら…
彼はことあるごとに私に共にどうかと誘いを掛けてくる。

けれど私は彼の誘いを断り、一人きり肩身の狭い思いでその日出来ることをして過ごした。

きっと周りに見せるための見栄えだけ。
愛してくれる気など無いのだろうに…


ある日招かれた席で、相手方の婦人が私と彼に尋ねた。

「カイト様はアネアさんと二人の楽しみは何かあるのかしら?わたくしたちも、わたくしの入れるお茶と用意したお茶菓子を、ティータイムに二人でとるのだけが楽しみなの。アネアさんは料理がお好きだそうね?」

料理なんてそこまで好きではないけれど、最も両親に反発をしていた頃に覚え、それから反対を押し切ってよく作っていた。
私の行動に諦めた両親が、私を紹介する際周りにそう言っていたのだろう。

「アネア、そうなのか?お前は奥ゆかしく自分のことをあまり言わないから、僕は知らなかった。次は僕にぜひ作ってくれないか?」

自ら料理など貴族らしくないからと両親に言われ、反発のために続けていた私に、人に振る舞えるほどの腕なんて…

「まあ貴方。私の腕はちょっとしたお遊び程度なのですから、それでは大切な貴方に申し訳ありませんわ。屋敷には尽くしてくれているシェフもいるのですし。ですからいつか、ね…?」

私は惨めで泣き出したい気持ちを必死に抑え、なるべく穏やかに笑ってそう言った。

「…アネア、君がそう言うのなら…。楽しみにしているよ…」

彼は穏やかにそう答えた。
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