君が望むなら…
「…アネア…?」

強く抱き締めていた私の顔を、彼は信じられないという表情で見つめる。
私の口から勝手に出てくる言葉は止まらない。

「他の男といて傷物になった妻など、貴族である貴方のそばには相応しくありませんものね。」

「何を言うんだ…!!そんなことはない、君は…その…」

彼はまた言い掛けて止め、強く私を抱き締めていた力は次第に抜けていく。

「…さようなら貴方…私は死んだと伝えて下さい…もう二度と、貴方の前には現れません…」

私は操られたようにフラフラと立ち上がり、その場を立ち去った。

痛みがまだあるはずの体に、私は痛みを感じなかった。操られたように、私の足だけが先に行こうと動く。
視界はなぜか滲み、振り向かない私に彼の姿はもう映らない。


私はこれで自由だ…

どこへ行こう…帰る場所もない私。

そうだ、旅に出よう。
私を知る者が誰もいない、知らない土地へ。

私をいつも気に掛け微笑んでいてくれたあの人を、早く忘れるために……



→次ページ、彼side
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