君が望むなら…
招かれた席での婦人の話によれば、妻となった彼女は料理が出来るという。

魅力的なことだ。
彼女は好きな相手に料理が振る舞えるということ。

一度でいい、彼女の料理が食べてみたい…
しかし、

『まあ貴方。私の腕はちょっとしたお遊び程度なのですから、それでは大切な貴方に申し訳ありませんわ。屋敷には尽くしてくれているシェフもいるのですし。ですからいつか、ね…?』

…やはり断られてしまったが、彼女は『いつか』と言った。
建前かもしれないけれど、その『いつか』が来ることを僕は祈ろう…


彼女は笑わない。

招かれた場所でもぎこちなく笑うだけ。
この生活自体が彼女の望んだことではないのだから、笑えるはずもないかもしれない。

しかしそんな小さな僕の願いを聞いて欲しいと、ある日とうとう彼女に願ったけれど…

『…これで満足ですか…?まさか貴方が、自分の妻を良いように動かしたいと思うような方だったとは、思ってもみませんでしたわ…』

ほんの一瞬の悲しげな笑みと、冷たい、彼女の言葉が僕に突き刺さる。
そして…

『…私は貴方に囚われるためだけにここにいるのです…』

悲しかった。
きっともう、僕の願いは叶わないのだ。

彼女にとってここは檻の中。
僕が彼女を自由に出来るとしたら、それは僕が彼女を手放すときでしかない。

もう少しだけ…もう少しだけ彼女と分かり合えたなら……
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