楽園 ~きみのいる場所~
「子供の父親が誰なのか、お望みであれば検査が出来ます。ただ、父親である要の所在が掴めませんので、ひとまず俺の子でないことの証明になりますが。それから、離婚は取り消しません。財産分与については、結婚後の共有財産について、預貯金の四分の一とマンションを渡します。弁護士に相談したところ、マンションを含めるとそれが適正な分与だそうですので」
「ちょっと待ってよ! この前までは全部くれるって言ったじゃない!」
「その条件を提示した書面を、お前は破り捨てたろう?」
ベッドの上で髪を振り乱す萌花の元に母親が駆け寄り、肩を抱いた。
父親はじっと俺を見据えている。
今まで、親密な付き合いをしてきたわけではないが、それでも義父として彼をそれなりに立ててきた。
仕事の口添えもしたし、彼の意見を否定したこともない。
まぁ、面倒は避けたかったというのが本音ではあるが。
ともあれ、彼は俺を通じて顔と名前を売り、業績を上げた。この先もそのつもりだったろう。
直接聞いてはいないが、噂ではモデル事務所から手を広げようと大手芸能事務所から若手の女優に金を積んだらしいから、俺と萌花乗り込んで明堂貿易の後ろ盾がなくなると計画が台無しになるだろう。
今の彼は、萌花の父親か、それとも会社社長か。
萌花の父親は喚く妻と娘に眉をひそめ、次に俺に向かって口を開いた。
「明堂会長は離婚に――」
「――い、慰謝料! 財産分与と慰謝料は違うわ!」
萌花の言葉にかき消されたが、親父の名を出したとなると心配なのは娘より仕事のようだ。
萌花の母親も気にしているのは体裁で、萌花自身の気持ちや将来を案じているようには見えない。
明堂家も大概だが、近江家も酷いもんだ。
俺も楽も、血の繋がりを捨てることに何の迷いも感じさせない点では、良かったかもしれない。
楽……。
家族は俺だけでいいよな?
「そもそも、あなたが楽と浮気しなければ、私だって――」
「――事故で身体が不自由になった夫を『役立たず』と笑い、姉に一切の世話を任せっきりにしておきながら、被害者面するな。どちらが先かを問題視するなら、お前と要の関係が俺の事故以前からだったことは調べてあるから、被害者は俺だ」
「レ、レイプ! されたのよ!! 要さんに無理矢理――」
「――自分をレイプした相手に腕を絡めて、ホテルの部屋はスイートがいいだなんてねだるのか?」
「なんのことよ! 知らないわ!」
「妻の言葉を少しは信じたらどうなの! あなたや明堂家の方々に囲まれては、萌花は思うことも口に出来ないのよ!? 要さんとの関係が合意の上ではなかったのなら、あなたは実家を敵に回しても妻を守るべきでしょう! なんて不甲斐ない!!」
「やめなさい!」
ようやく、本当にようやく、萌花の父親が吠える妻を制止した。
さすがに、萌花も萌花の母親も黙る。
「ちょっと待ってよ! この前までは全部くれるって言ったじゃない!」
「その条件を提示した書面を、お前は破り捨てたろう?」
ベッドの上で髪を振り乱す萌花の元に母親が駆け寄り、肩を抱いた。
父親はじっと俺を見据えている。
今まで、親密な付き合いをしてきたわけではないが、それでも義父として彼をそれなりに立ててきた。
仕事の口添えもしたし、彼の意見を否定したこともない。
まぁ、面倒は避けたかったというのが本音ではあるが。
ともあれ、彼は俺を通じて顔と名前を売り、業績を上げた。この先もそのつもりだったろう。
直接聞いてはいないが、噂ではモデル事務所から手を広げようと大手芸能事務所から若手の女優に金を積んだらしいから、俺と萌花乗り込んで明堂貿易の後ろ盾がなくなると計画が台無しになるだろう。
今の彼は、萌花の父親か、それとも会社社長か。
萌花の父親は喚く妻と娘に眉をひそめ、次に俺に向かって口を開いた。
「明堂会長は離婚に――」
「――い、慰謝料! 財産分与と慰謝料は違うわ!」
萌花の言葉にかき消されたが、親父の名を出したとなると心配なのは娘より仕事のようだ。
萌花の母親も気にしているのは体裁で、萌花自身の気持ちや将来を案じているようには見えない。
明堂家も大概だが、近江家も酷いもんだ。
俺も楽も、血の繋がりを捨てることに何の迷いも感じさせない点では、良かったかもしれない。
楽……。
家族は俺だけでいいよな?
「そもそも、あなたが楽と浮気しなければ、私だって――」
「――事故で身体が不自由になった夫を『役立たず』と笑い、姉に一切の世話を任せっきりにしておきながら、被害者面するな。どちらが先かを問題視するなら、お前と要の関係が俺の事故以前からだったことは調べてあるから、被害者は俺だ」
「レ、レイプ! されたのよ!! 要さんに無理矢理――」
「――自分をレイプした相手に腕を絡めて、ホテルの部屋はスイートがいいだなんてねだるのか?」
「なんのことよ! 知らないわ!」
「妻の言葉を少しは信じたらどうなの! あなたや明堂家の方々に囲まれては、萌花は思うことも口に出来ないのよ!? 要さんとの関係が合意の上ではなかったのなら、あなたは実家を敵に回しても妻を守るべきでしょう! なんて不甲斐ない!!」
「やめなさい!」
ようやく、本当にようやく、萌花の父親が吠える妻を制止した。
さすがに、萌花も萌花の母親も黙る。