三羽雀
惨め或いは幸福
(もう……今日という日は一筋縄ではいかないわね、あの「お仕事」も大変だったし、憲兵に声をかけられるし、継母に叩かれるし……きっとこういうのを不条理と呼ぶのね)
とぼとぼと歩く足元に暗い影が落ちる。
半歩ずつ離れていく屋敷の方から車の音が聞こえてきた。
(私は悪くないのよ、ええ。お父様はものすごい剣幕だったもの、私はそれに従っただけなの。突然理解不能な行動ばかり起こすお継母様の方が問題だわ)
住宅街の静寂の中に、ローヒールの足音がコツコツと鳴っている。
何処へ向かおうという気もなく、ただ歩いていたい。
あの訳の分からない状況から抜け出したい。
徐々に冷めてきた幸枝の頭に疑問が浮かぶ。
何故あの人はいつも身勝手なのだろう、一日の中で顔を合わせることは無いに等しい。家族全員が食卓を囲むべきご飯の時間も別々に過ごしている。
何故あの人は何時迄も息子を束縛するのだろう、─唯一の血の繋がる子供だからというのは当然だけれども─もうあの子も小学校高学年になる。
何故あの人は妻らしく、母親らしく振る舞わないのだろう、─振舞わないのではなく、振る舞えないのかもしれないが─私だって、好きでこの生活をしている訳ではないのに。
もっと華やかな青春時代を過ごしたかった。女学校を出ても自由で居たかった。
周囲にいるのは大人ばかりで、どんな集まりに行っても場違い。
男の人の隣にいるのはいつも婦人、十九の子供なんて何処にもいない。
「若いのにご立派ね」「感心ものだな」なんて言葉は嬉しくない、むしろ嫌味さえ感じる。
とぼとぼと歩く足元に暗い影が落ちる。
半歩ずつ離れていく屋敷の方から車の音が聞こえてきた。
(私は悪くないのよ、ええ。お父様はものすごい剣幕だったもの、私はそれに従っただけなの。突然理解不能な行動ばかり起こすお継母様の方が問題だわ)
住宅街の静寂の中に、ローヒールの足音がコツコツと鳴っている。
何処へ向かおうという気もなく、ただ歩いていたい。
あの訳の分からない状況から抜け出したい。
徐々に冷めてきた幸枝の頭に疑問が浮かぶ。
何故あの人はいつも身勝手なのだろう、一日の中で顔を合わせることは無いに等しい。家族全員が食卓を囲むべきご飯の時間も別々に過ごしている。
何故あの人は何時迄も息子を束縛するのだろう、─唯一の血の繋がる子供だからというのは当然だけれども─もうあの子も小学校高学年になる。
何故あの人は妻らしく、母親らしく振る舞わないのだろう、─振舞わないのではなく、振る舞えないのかもしれないが─私だって、好きでこの生活をしている訳ではないのに。
もっと華やかな青春時代を過ごしたかった。女学校を出ても自由で居たかった。
周囲にいるのは大人ばかりで、どんな集まりに行っても場違い。
男の人の隣にいるのはいつも婦人、十九の子供なんて何処にもいない。
「若いのにご立派ね」「感心ものだな」なんて言葉は嬉しくない、むしろ嫌味さえ感じる。