三羽雀
長津も幸枝の手を持ったまま、俯いている。
「自由で、お金もあって、お父様やお兄さまも居るのに。私が上流の恵まれた人間であることは重々理解していますし、だからこそ贅沢を言うことはできません」
僅かに軍人の影からはみ出た少女の滑らかな肌が月光に照らされる。
「自らの犠牲を厭わないことは時として自身を毒します」
「はあ」
青白い光の当たらない眼は依然として生気を失ったように見えた。
「伊坂さん、貴女は心優しい女性です。貴女なりに苦労をしてきたからこそ、人の心の痛みが分かるのだろう。しかし、先ずは伊坂さん自身が常に丈夫でないといけません」
長津の話は続く。月は雲隠れしたか、幸枝の白い肌も宵闇に溶ける。
「私は此れ迄に幾人もの人間を見てきました。無謀な命令や理不尽な状況に耐え、自らの為だけでなく他人の為にも働く人間は、皆きまって身体か精神を壊します。貴女にはそうなってはいただきたくない」
きゅっと小さくなった幸枝の手を取って、長津は続ける。
「辛いときは誰かを頼ってください。ご友人や身近な方で良いから、少しだけでも話したり、一緒に過ごしたりしていると気が晴れますよ。当然、私を頼っていただいても良いですから、どうかそんな顔をするのはよしてください」
幸枝の目がほんの少し潤んだ。いつかの喫茶店でとある学生に言ったのと全く同じ言葉を掛けられて、妙な安心感と不甲斐無さが混ざったような感情を抱く。
「……有難うございます」
少女の小さな肩を抱き寄せた長津は、
「さあ、戻りましょう」
と幸枝を邸宅まで送ることにした。
「自由で、お金もあって、お父様やお兄さまも居るのに。私が上流の恵まれた人間であることは重々理解していますし、だからこそ贅沢を言うことはできません」
僅かに軍人の影からはみ出た少女の滑らかな肌が月光に照らされる。
「自らの犠牲を厭わないことは時として自身を毒します」
「はあ」
青白い光の当たらない眼は依然として生気を失ったように見えた。
「伊坂さん、貴女は心優しい女性です。貴女なりに苦労をしてきたからこそ、人の心の痛みが分かるのだろう。しかし、先ずは伊坂さん自身が常に丈夫でないといけません」
長津の話は続く。月は雲隠れしたか、幸枝の白い肌も宵闇に溶ける。
「私は此れ迄に幾人もの人間を見てきました。無謀な命令や理不尽な状況に耐え、自らの為だけでなく他人の為にも働く人間は、皆きまって身体か精神を壊します。貴女にはそうなってはいただきたくない」
きゅっと小さくなった幸枝の手を取って、長津は続ける。
「辛いときは誰かを頼ってください。ご友人や身近な方で良いから、少しだけでも話したり、一緒に過ごしたりしていると気が晴れますよ。当然、私を頼っていただいても良いですから、どうかそんな顔をするのはよしてください」
幸枝の目がほんの少し潤んだ。いつかの喫茶店でとある学生に言ったのと全く同じ言葉を掛けられて、妙な安心感と不甲斐無さが混ざったような感情を抱く。
「……有難うございます」
少女の小さな肩を抱き寄せた長津は、
「さあ、戻りましょう」
と幸枝を邸宅まで送ることにした。